ニュースの概要
ニューヨーク市のブルックリン、クイーンズ、ブロンクスなどで、ビルの屋上にミツバチの巣箱を置く動きが広がっている。市内ではおとなしい性質のセイヨウミツバチの飼育が五つの行政区すべてで認められている。ただし誰でも自由に飼えるわけではない。巣枠を取り外して点検できる可動式の巣箱を使うこと、きちんと世話をすること、巣箱を行政に登録することが求められる。屋上なら人の行き交う地上と蜂の飛行ルートが重なりにくく、使われていない空間を蜂蜜づくりや生き物の保全に回せる。一方で、都市養蜂が増えるほど、管理の質をどう保つかが問われ始めている。
引用元: ニューヨークで屋上養蜂が拡大、合法化後の登録・管理規則が焦点に(PositiveBloom)
分析・見解
解禁より登録制に重みがある理由
ニューヨーク市は2010年に養蜂を正式に認めた。それまでは危険な動物を扱う規定の対象で、巣箱を置くこと自体が違反になりかねなかった。解禁後も、無条件に認めたわけではない。おとなしいセイヨウミツバチに限る。巣枠を外して中を見られる可動式の巣箱を使う。そして巣箱を市に登録する。この三つがセットである。
中でも登録制は地味だが効果が大きい。行政が巣箱の場所と数を把握できれば、苦情が出たときに飼い主へすぐたどり着ける。病気が広がったときも、周辺の巣箱へ素早く注意を促せる。ルールは飼う人を縛るだけでなく、近隣が安心して受け入れるための土台になっている。
屋上という場所が持つ強みと見落とされやすい弱点
屋上の強みは、人との動線が分かれる点にある。ミツバチは巣箱を出入りするとき、まず上へ飛び上がる習性がある。地上の歩道脇に置くより、通行人と接触する機会が減りやすい。しかも屋上は多くのビルで使われていない。新たに土地を買う必要がなく、置き場所のコストは低い。
弱点もある。夏の屋上は強い日差しと風にさらされ、巣箱の温度や水の確保に手間がかかる。蜜源となる花が周囲に少なければ、蜂は遠くまで飛ばなければならない。さらに、巣箱の点検や蜂蜜の搬出には人が階段やエレベーターで行き来する。ビルの管理者との取り決めがなければ、日常の作業は続けにくい。屋上は安全そうに見えて、運営の面では意外と手間が多い場所である。
欧州や日本の都市養蜂と比べて見えること
都市養蜂は新しい試みではない。パリでは2000年代からオペラ座の屋上などで蜂蜜が採れ、ブランドとして定着した。日本でも、銀座のビル屋上で2006年に始まった取り組みが知られ、全国の都市に広がった。日本では家畜伝染病予防法に基づき、飼育の届け出が必要である。ニューヨークの登録制は、この日本の仕組みとよく似ている。
ここに独自の視点を一つ加えたい。都市養蜂の成否は、蜂の数ではなく、近隣との信頼の量で決まる。蜂蜜の販売は収入になるが、一度でも刺傷事故や苦情が起きれば、取り組み全体が止まりかねない。登録制は、その信頼を制度の側から支える役目を持つ。規制は成長を妨げる壁ではなく、広く受け入れられるための条件だと見るほうが実態に近い。
拡大期に問われる生態系への配慮
都市に巣箱が増えすぎると、新たな問題が出る。花の蜜を求める蜂が増えれば、野生のハナバチと餌を取り合うおそれがある。都市の野生種を守るために始めた養蜂が、かえって野生種を圧迫する皮肉な結果になりかねない。今後は、地域の花の量に見合った巣箱の数を考える視点が欠かせない。
ビジネスへの影響
屋上を持つ事業者に生まれる新しい使い道
ビルのオーナーや不動産会社にとって、屋上養蜂は貸し出しによる収入と、環境への取り組みの実績づくりを同時に狙える手段である。蜂蜜は自社ブランドの贈答品やテナント向けの記念品に使える。ただし契約では、刺傷事故に備えた保険、点検時の立ち入り範囲、巣箱の撤去条件を最初に決めておく必要がある。後から決めようとすると、近隣苦情の場面で責任の所在があいまいになる。
養蜂を事業にする側が先に整えるべき準備
養蜂を始める事業者は、収益より先に届け出と飼育記録の整備を進めたい。巣箱の位置、点検日、病気の有無を記録しておけば、行政の確認にも近隣への説明にもそのまま使える。収入源は蜂蜜だけに頼らず、体験講座、企業研修、緑化の相談といった周辺サービスと組み合わせると安定しやすい。蜜源の花を屋上で育てる設計も、蜂の飛行距離を短くし、苦情の抑制につながる。
日本の事業者が今から見ておくべき点
日本でも都市部で屋上養蜂は増えている。ニューヨークの動きから学べるのは、規則が整うほど、運営の質で差がつくことである。届け出を済ませるだけでは足りず、近隣への事前説明と、問い合わせに答える窓口を持つ事業者が選ばれていく。今のうちに管理の手順を文書にしておけば、新規参入が増えた時期に信頼という強みになる。